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November 2021

税務の現場から

差別化への工夫

小欄巻末の自己紹介でもうたっているように、筆者は税務コンサルティングを生業にしている。多くの会計事務所が、自分の立ち位置や、独自性を訴えようと、如何なるValue added servicesを提供できるのか、またそれがクライアントにとってどんな価値・意義があるのか、ホームページからメッセージを発信している。コンプライアンス案件と異なり、コンサルティングは、企業業績にtangibleな影響を与える為、提供する側にとっては、差別化の為の格好のマーケティング・ツールである。一方、顧客の視点からは、コンサルティングにかける費用は、投資に似た趣があるのではないか。有効なコンサルティングを長年受けている者とそうで無い者では、当然ながら、その恩恵に相当な差が生じるため、コンサルタントの選定には慎重を期したい。 筆者が提供するコンサルティングのうち、最も主たるものは移転価格だ。弊所の法人クライアントの多くが海外のグループ企業との関連者間取引を通じ、米国移転価格税制の対象となっているからだ。移転価格スタディは、Value chain分析である。人事担当者が職員のパフォーマンスを査定するように、移転価格スタディは、グループのメンバー企業の貢献度を評価し、受け取り対価がその貢献にふさわしいか吟味する。スタディの核となるのは、市場分析と機能分析。市場分析では、当該企業グループの北米市場における立ち位置や競争力を測る。更に、競合と比較した場合のグループの強み、弱みを分析し、現状及び将来についての課題を提示する。機能分析では、市場分析で明らかになった、グループの立ち位置、競争力の形成に各メンバー企業が如何に寄与したか分析する。米国子会社を対象としたスタディの場合で、子会社の貢献度がごく限られている場合には、「子会社が施すルーティーンな機能に見合った利益さえ出ていれば、米国移転価格税制上問題なし」の結論に至るべく、文章を整える。逆に米国子会社がグループの北米事業の主体である場合、「当該取引を通じ海外関連者に支払った適正対価を除くすべての事業所得は米国子会社に帰属する(=従って、米国子会社が赤字でも構わない)」也の結論に至る。 移転価格を通じて筆者が見てきたのは、北米市場における差別化の確立や競争力の向上の為に日に日に努力する日系企業の姿だった。中でも特に印象に残っているのは、駆け出しのころ取材させて頂いたクライアント先の社長が、満面の笑みを浮かべて、「うちは、作っている製品の質では、米国の競合に絶対勝てない。でも、うちの日本人営業マネジャーがいる限り、商売では、どの米国の競合にも絶対負けない」と、自慢げにおっしゃった事だ。日系企業のイメージと真逆で、半信半疑だった。後日その営業マネジャー(=東証一部上場企業からの駐在員)から直接お話を伺ったが、職人さながらのこだわりで、全米相手に商売されていた。こんな営業をされれば、競合もたまらないだろうと思った。‘ものづくり’と言うが、日本人の職人気質は営業畑にも引き継がれ、国際舞台で実力を発揮しているのだなと、実感した。 日々差別化に取り組んでいる人にとっては、他人が如何なる努力をしているかも気になると思う。以前、営業での出先で、「御所は、競合の会計事務所と比較して、何が優れていますか。サイズ的に同じくらいの規模の事務所が沢山ある中で、どうして御所と契約すべきなのでしょうか」と問われた。営業担当の同僚が困っていたので、「他の事務所さんは、クライアントの為、不服申し立て(=Administrative appeals)までしても払った税金を取り返そうとするかお尋ねください」と答えた。「ほ~ぅ」という反応で、気に入って貰えたことがわかった。 筆者の紹介 ― 河村好司(kawamura@reiwa-us.com)。Reiwa Accounting にて移転価格やクロスボーダー事業、取引に関する税務コンサルティングを行う。税務調査、不服申し立て立ち合いの経験も豊富。今後も、実務にて得た経験をベースに寄稿予定。
Masahiro Kusunoki
November 28th, 2021