前回小欄にて、筆者が、IRS指針の執筆担当官僚から直接聴取を行っている事に言及したところ、「そこまでやっているとは、思わなかった」、「どうして、そういった官僚とコンタクトが取れるのか」等のコメントを貰った。
コンタクトを取るのは簡単だ。IRSが発行する財務省規則草案のPreamble、最終規則のTD、またその他指針の多くには、執筆者、担当者の名前、コンタクト番号が記載されているので、規則、指針の内容に不明な点があれば、その者に電話する。ただ、電話しても、電話を取ってくれる事は殆ど皆無だ(私の経験では、1度も取って貰った事は無い)。ボイスメールに、質問の内容を要領よく伝え、Call backを待つ。大体2,3日中にCall backをくれる。彼らはIRS内のOffice of Chief Counsel、Office of Associate Chief Counselに所属しており、弁護士である者とそうで無い者がいる。弁護士ライセンスが無くても、この国の財務省規則、指針を執筆している人も居るという事だ。
規則や指針の実際の執筆者に質問するのだから、何でも答えられるだろうと思いがちだが、そうではない。こちらも、重箱の隅をつつくような質問ばかりするからだ。これまで、即答頂けた事は殆どない。「同僚と確認したうえで、回答するので、数日~数週間待ってくれ」也の対応が多い。部署内で確認した回答を頂いても、またそれに対して追加質問をする場合もあるので、ケースによっては何度もやり取りを交わす。そのうち、直通電話を教えてくれる人も居る。
日本で勤務していた時代に、審理事務担当に連絡しアドバイスを仰いでいたが、審理に相談した経験のある読者ならば、国は違えど、税務の実務家と官僚とで如何なる対話が交わされるか、容易に想像がつくと思う。我々会計事務所は情報サービスであるが為、常に信ぴょう性の高い”ネタ”を追っているという点では、メディアに似ている。その為、出版社のエディター、弁護士、コンサルタントらとのつながりが重要なのだが、規則や指針を執筆している官僚から得る知見は、何ものにも代えがたいものだと思う。
官僚との接触を通じ、思いがけない経験をした事がある。Stepped-up basis(内国歳入法1014(f)条)に関する財務省規則草案が発表された直後、「日本の居住者が米国資産を遺して亡くなった場合で、相続税条約上の恩典を使えば米国エステートタックスが生じないはずなのに、諸々の理由にてエステートタックス申告書&条約開示(=Forms 706NA & 8833)が未提出だった場合、当該米国資産についてはStepped-up basisが適用できるのか否か」尋ねたところ、「そうしたシナリオについて、財務省規則草案は想定していないので、答えは無い。最終規則を作る過程で参考にするので、連邦政府宛てにコメントを提出してくれ」と頼まれた。
依頼を受けRegulations.govに以下の趣旨のコメントを提出した。
A comparative reading of Prop. Regs. 1.1014-10(b) and 1.1014-10(c)(3)(ii) points that the consistent basis requirement does not apply to any property that is includible in the decedent’s gross estate from which no tax arises regardless whether the filing requirement under IRC Sec 6018 with respect to the decedent’s estate has been met. In the case of a noncitizen nonresident decedent’s estate, the estate is subject to the IRC Sec 6018 filing requirement if such part of the gross estate as is situated in the US exceeds $60,000. However, it could nevertheless not owe any US estate tax provided the decedent was a resident of one of the few countries whose death tax treaty with the US provides the prorated unified credit as referenced in IRC Sec 2012(b)(3)(A) , the prorated unified credit completely offsets the decedent’s gross estate tax, and the treaty-based position is disclosed on a Form 8833 attached to the decedent’s estate tax return (Form 706-NA) per Reg. 301.6114-1(a)(1)(i).
Since claiming the prorated unified credit under a treaty is predicated on the treaty-based position disclosure, I would like to suggest that the final regulation specify that a noncitizen nonresident decedent’s estate meeting the IRC Sec 6018 filing requirement needs to file a US estate tax return with a proper treaty-based position disclosure in order to avoid being subject to the consistent basis requirement even if the prorated unified credit would completely offset its gross estate tax.
近い将来1014(f)条の最終規則が発行された暁には、上記提案が採用されたか否か、小欄にてお伝えする。
筆者の紹介 ― 河村好司(kawamura@reiwa-us.com)。Reiwa Accounting にて移転価格やクロスボーダー事業、取引に関する税務コンサルティングを行う。税務調査、不服申し立て立ち合いの経験も豊富。今後も、実務にて得た経験をベースに寄稿予定。