新リース基準 - 第七回 Initial Direct Cost

By June 16th, 2022 June 26th, 2022 監査

今回はinitial direct costをlesseeの立場から見ていきます(なお、lessorの立場からもinitial direct costは発生しますが、今回は割愛します)。Initial direct costに関してASC 842は以下のように定義しています。Incremental costs of a lease that would not have been incurred if the lease had not been obtained (842-20-20). 訳すと「リース契約に至らなかったとしたら発生しなかったような追加的な費用」でしょうか。今ひとつわかりにくいのですが、ASC 842 は以下のような例を挙げています。

該当するものは(ASC 842-10-30-9):

a.(不動産ブローカー等への)コミッション
b.  既存のテナントに対する立ち退き料の支払い

一方、該当しないものは(ASC 842-10-30-10を簡略化)

a.一般的な間接費
b.  Lessorが行う宣伝、lesseeの募集にかかる費用等(これはlessorからの視点です。)
c. リース契約に至る前にの活動(例:税務や法務のアドバイスを得る、リースの条件の交渉をする等)に関する費用

上記の例を見るとlesseeから見たinitial direct costは、「リース契約が締結されて初めて発生するlessor以外の外部の者に対する費用」と考えるとわかりやすいのではないかと個人的には考えています。

Initial direct cost とROU asset、lease liability

ASC 842は、lesseeはinitial direct costをROU asset算出にあたって加算するよう規定しています(ASC 842-20-30-5)。今まで、第二回、第三回でROU asset=discountされたlease liabilityとして説明してきましたが、実はASC 842では、ROU assetは以下の3つから構成されるとしています。

a. Discountされたlease liability
b.  リースの開始前又はリース開始時までにlessorに支払ったLease Paymentから受け取ったlease incentiveを控除したもの
c.  Initial direct cost

上記のb.を見ると何か見覚えのあるフレーズです。これは、第五回で説明したlease paymentの内容とかぶっています。単純に考えると第五回で説明したLease Paymentをdiscountしたものがlease liabilityになりそうです。それにまた上記b. で支払ったLease Payment(マイナスlease incentive)をROU assetの計算に加算しては二重計上になるように見えます。

この点、実はlease liabilityについてASC 842-20-30-1は以下のような規定を置いています。

Lesseeはリース開始日(commencement date)にlease liabilityとROU assetを測定しなければならないとして、lease liabilityは未だ支払われていないLease Paymentをdiscount rateで割引いた現在価値である(the lease liability at the present value of the lease payments not yet paid, discounted using the discount rate for the lease at lease commencement. )と測定方法を規定しています。
このためリース開始日(commencement date)に測定されるROU assetに加算されるものは、

未だ支払われいないLease Paymentの現在価値=lease liability)+(既に支払われたLease Payment)+(initial direct cost)

となり、上述した二重計上の状態にならないことになります。
少しわかりにくいので設例で説明すると以下のようになります。

【設例】

リース契約の内容
・契約締結は1月1日、Commencement dateは、3月1日。
・3年間のリースで毎月$10,000を36回支払うが、最初の$10,000の支払いは契約締結時におこなう。
・残りの35回は毎月後払いで、その現在価値は$300,000と計算された。
・Lessorは、$5,000のlease incentiveを2月1日に払う。
・契約成立に伴い1月1日に$2,000のinitial direct cost(broker commission)がlesseeに発生した。

 

 

 

 

 

この場合、ROU assetは以下になります。

Lease liability $300,000
Lease payment before or on commencement date 10,000
Lease incentive  (5,000)
Initial direct cost   2,000
Total   ROU asset   $307,000

 

 

 

 

ところで、ASC 842では、ASC 842-20-25-1において、lesseeはcommencement dateにおいてROU assetとlease liabilityを認識するとあります。すると、commencement dateまで、この取引はどのように記帳されるのでしょうか。
科目名は多少異なる場合があると思われますが、概ね以下のようになります。

1月1日 (契約締結時)  
    (Dr.) Prepaid rent $10,000
        (Cr.) Cash      $10,000
    (Commencement date前のリース料の支払)  
   
    (Dr.) Initial direct cost $2,000
       (Cr.) Accrued expense      $2,000
(Initial direct costの発生)  

 

2月1日  
    (Dr.) Cash  $5,000
        (Cr.) Lease incentive       $5,000
    (Lease incentiveの受取)  

 

 

 

 

 

 

3月1日(commencement date)  
    (Dr.) ROU asset  $300,000
       (Cr.) Lease liability       $300,000
    (Lease liabilityとROU assetの認識)  
   
    (Dr.) ROU asset  $7,000
    (Dr.) Lease incentive $5,000
       (Cr.) Prepaid rent       $10,000
       (Cr.)Initial direct cost       $2,000
    (Prepaid rent, lease incentive, initial direct costのROU assetへの振替)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上述したROU assetの構成要素からもわかりますが、このようにlease liabilityとROU assetの当初の金額は必ずしも一致するものではないことに留意が必要です。

ASC 840におけるinitial direct cost

旧基準でもInitial direct costの概念はありましたが、lessor側に発生したものの取扱いを規定していました。また、その範囲もASC 842よりも若干広くincremental costだけではなく、リース取引がなかったら発生しなかったコスト(The costs would not have been incurred had that leasing transaction not occurred.)とし、次のものが含まれるとしていました。1)Lesseeの財務状態の評価、2)保証、担保、その他債権保全の取決の評価と登録、3)リースの条件の交渉、4)リース文書の作成と処理、5)リースの締結(closing)の費用。さらにこれらの活動に直接関連する内部の人件費も含まれていました。

次回は、今までの論点をまとめたoperating leaseの総合設例を提示する予定です。