固定資産売却損益は、損益計算書のどこへ

By June 25th, 2021 September 5th, 2021 監査

これは一見簡単そうだが、日米の違いが大きく結構問題になる。

日本の扱い

日本では、企業会計原則が以下のように定めている。

第2-6 特別損益
「特別損益は、前期損益修正益、固定資産売却益等の特別利益と前期損益修正損、固定資産売却損、災害による損失等の特別損失とに区分して表示する。」
なお、注解12では、特別損益に属する項目であっても、金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは、経常損益計算に含めることができると定めている。

アメリカの扱い

一方、USGAAPだが、これはASC (Accounting Standards Codification)360-10-45の固定資産の条項で示されている。

360 Property, Plant, and Equipment
360-10-45 Other Presentation Matters>>  Presentation of Disposal Gains or Losses in Continuing Operations
45-5 A gain or loss recognized on the sale of a long-lived asset (disposal group) that is not a discontinued operation shall be included in income from continuing operations before income taxes in the income statement of a business entity. If a subtotal such as income from operations is presented, it shall include the amounts of those gains or losses.

意味するところは、営業利益項目として計上しなさいということである。なお、 If a subtotal such as income from operations is presentedとあるのは、USGAAPでは、営業利益のsubtotalを出さないsingle stepの損益計算書も認められているためそれを考慮したもので、営業利益を表示している場合は、営業利益項目である。

日米の違いの背景

この日米の違いの背景には、固定資産の帳簿価格とのズレに関する考え方の違いがあるように思える。固定資産の帳簿価格は、減価償却が各事業年度に計画的、規則的に実施された結果である。この規則的、計画的というのは、固定資産への投下資金の回収計画を示すだけのものである。4年の耐用年数の固定資産なら、4年で回収しようという謂わば経営計画であり、これは評価方法ではない。この点、貸倒引当金の算出方法とは根本的に異なる。なお、土地の場合は、減価償却されないが、これも、原価での回収は確実であるという経営計画の表れである。この経営計画と現実がズレが、売却時に生じるのだが、日本の場合は、経営計画からずれた売却損益は、経営計画が妥当でなかったため生じたものであり原価性がない、さらには、前期損益修正と同じような性格を持つと捉えられているようである。すると、特別損益に区分しようということになる。

USGAAPのばあい、営業損益には、本業から発生する損益はできるだけそこに抱合させようとする。そして営業外項目とされるのは以下のようなものである。

  • Non-operating income.
    (a) dividends,
    (b) interest on securities,
    (c) profits on securities (net of losses), and
    (d) miscellaneous other income.
  • Interest and amortization of debt discount and expense.
  • Non-operating expenses.
    (a) losses on securities (net of profits) and
    (b) miscellaneous income deductions.

なお、上記は、SECの設定した規定(Regulation S-X)をASCに取り込んだもの(220-10-S99 SEC Materials)である。つまるところ、ある項目について本業の業務が存在した結果発生したものが、それとも本業の業務の存在とは、無関係に発生しうるかで区分しているように見える。本業が存在したため固定資産売却益が発生したら、これは営業損益として扱う。一方、本業でない投資不動産の売買損益は営業外になる。利息等は、本業のオペレーションから直接の因果関係はない(利息を発生させなくても本業は遂行できる)ので、営業外といった感じである。

なお、アメリカでは特別損益の区分は廃止された。以前は、Infrequent and unusual itemに関しては、operating incomeに入れずにextraordinary itemとして表示していたのだが、ASU 2015-01でextraordinary itemは廃止され以下のように変更された。

A material event or transaction that an entity considers to be of an unusual nature or of a type that indicates infrequency of occurrence or both shall be reported as a separate component of income from continuing operations.

実際、10Kを見ると以下のような例が出てくる。

Net loss $ (18,786)
    2019
Revenue $ 242,931
Expenses:
Cost of revenue (excluding depreciation and amortization) 149,753
Depreciation and amortization 31,129
Impairment of goodwill and intangible assets
Change in fair value of earn-out/contingent consideration 2,499
Gain on sales of property, plant and equipment (4,240)
Selling and marketing 12,230
General and administrative 53,630
Total expenses 245,001
Operating loss (2,070)
Other expense, net (5,971)
Loss before income taxes (8,041)
Income tax (expense) benefit (10,745)

固定資産減損損失の表示区分

なお、以上の考え方は、固定資産の減損損失の扱いにも現れている。日本は、特別損益、アメリカは営業損益である。経営計画を反映した簿価が、どうも回収できないとなったときに、経営計画を、その時点でのCF見積額等を元に、やり直すという立場から、日本では特別損益、アメリカは、依然として本業に関連した費用なので営業損益という考え方なのだと思われる。

IFRSと再評価モデル

さらに進んで、簿価が、経営計画の反映でいいのかという議論も当然出てくる。謂わば会計に経営計画を組み込んだようなもので、簿価と時価の乖離は不可避で貸借対照表計上額が、あまり役に立たない情報を示しているという観点からの議論である。これに対処したのが、IFRSの再評価モデル(IAS16.31)であり、経営計画を反映した簿価と時価の差額を、other comprehensive incomeとして扱って、貸借対照表の簿価に反映させている。Other comprehensive incomeは実現はしていないが、潜在的に実現しうる損益を収納する勘定であり、このようにすれば、時価との乖離は解消される。なお、IFRSは再評価モデルの選択は任意で、従来の原価(つまり、経営計画)に基づいた計上も認められている。