新リース基準(ASC 842)での大きな変更点は、lessee側のオペレーティング・リースの扱いです。旧基準(ASC 840)ではコミットメントとしてリース債務がfootnoteで開示されていただけですが、Right of Use Asset(ROU asset)という概念を新設してオンバランス化されることになりました。ROU assetは、an asset that represents a lessee’s right to use an underlying asset for the lease termと定義されており、ファイナンス・リース、オペレーティング・リース双方で使われます。
理論的な面は、後日触れるとして、実際にオペレーティング・リースをオンバランス化するというのは、どういうことか設例を使って見ていきます。
【設例1】
5年のリースで、各年度の終わりにリース料を、5,000, 10,000, 15,000, 20,000, 25,000と漸増して払っていく。割引率は9%で、この率を基にしたリース総額の現在価値は、55,000である。オペレーティング・リースと判定された。
これをASC 842に沿って表にすると以下になります。
合計 | 75,000 | 20,000 | 55,000 | 55,000 | 75,000 | ||
年 | リース料 | 利息 相当額 |
リース 債務減少 |
リース 債務 |
ROU asset 償却 相当額 |
ROU asset | リース費用 |
B/S | B/S | P/L | |||||
(a) | (b) | (c) | (d) | (e) | (f) | (g) | |
=(a)-(b) | =(g)-(b) | ||||||
当初残高 | 55,000 | 55,000 | |||||
1 | 5,000 | 4,951 | 49 | 54,951 | 10,049 | 44,951 | 15,000 |
2 | 10,000 | 4,947 | 5,053 | 49,898 | 10,053 | 34,898 | 15,000 |
3 | 15,000 | 4,492 | 10,508 | 39,390 | 10,508 | 24,390 | 15,000 |
4 | 20,000 | 3,546 | 16,454 | 22,936 | 11,454 | 12,936 | 15,000 |
5 | 25,000 | 2,064 | 22,936 | – | 12,936 | – | 15,000 |
リース費用の計算は実はASC 840の時と変わりありません。総リース料をリース期間に渡りストレート・ラインで認識します。設例では15,000/年です(g)。リース債務の当初金額は、55,000 (d)、キャピタル・リースの時と同じように利息(b)を計算して、リース債務を減少(c)させますが、損益計算書上は利息費用としては表示しません。
ROU assetの当初金額は、リース債務と同じ55,000 (f)、このROU assetの償却額(e)は、リース費用(g)から利息相当額(b)を引いて、plugする形で出します。利息と同じく損益計算書上は償却費用としては表示しません。
つまり、各期のリース費用(15,000)の構成要素が、利息相当額とROU asset償却相当額となるだけで、利息費用、償却費用は損益計算書では個別に表示しません。また、P/L に与える影響は、ASC840とASC842では変わらないことになります。
【設例2】
設例1と同じリースだが、ファイナンス・リースと判定された。ROU assetの耐用年数は5年。定額法で償却する。
合計 | 75,000 | 20,000 | 55,000 | 55,000 | 75,000 | ||
年 | リース料 | 利息費用 | リース 債務減少 |
リース 債務 |
ROU asset 償却費 | ROU asset | リース関連費合計 |
P/L | B/S | P/L | B/S | ||||
(a) | (b) | (c) | (d) | (e) | (f) | (g) | |
=(a)-(b) | =(b)+(e) | ||||||
当初残高 | 55,000 | 55,000 | |||||
1 | 5,000 | 4,951 | 49 | 54,951 | 11,000 | 44,000 | 15,951 |
2 | 10,000 | 4,947 | 5,053 | 49,898 | 11,000 | 33,000 | 15,947 |
3 | 15,000 | 4,492 | 10,508 | 39,390 | 11,000 | 22,000 | 15,492 |
4 | 20,000 | 3,546 | 16,454 | 22,936 | 11,000 | 11,000 | 14,546 |
5 | 25,000 | 2,064 | 22,936 | – | 11,000 | – | 13,064 |
これはASC 840からASC 842になっても変更はありません。利息費用(b)は、損益計算書上も利息費用として表示され、ROU assetの償却費(e)は、amortizationとして表示されます。
利息費用(b)とROU assetの償却費(e)が直接連動しているわけではないので、利息費用(b) ROU assetの償却費(e)を合計したリース関連費用(g)は、設例1のリース費用(g)と比べると各年度では当然差が出てきます。但し、合計額は一致します。
【設例3】
設例1をASC 840に沿って処理した場合。
合計 | 75,000 | 75,000 | – | |
年 | リース料 | リース費用 | Deferred rent(単年) | Deferred rent(累計) |
P/L | B/S | |||
(a) | (g) | (h) | (i) | |
=(a)-(g) | ||||
1 | 5,000 | 15,000 | (10,000) | (10,000) |
2 | 10,000 | 15,000 | (5,000) | (15,000) |
3 | 15,000 | 15,000 | – | (15,000) |
4 | 20,000 | 15,000 | 5,000 | (10,000) |
5 | 25,000 | 15,000 | 10,000 | – |
旧基準ですので、もちろんリース債務もROU assetも貸借対照表上認識されませんが、リース総額75,000を平準化して5年間で認識するためDeferred rent (i)が貸借対照表に計上されます。これは、各年度のリース費用と実際のリース料支払額の差額(h)の累計であり、リース終期には残高はゼロになります。
ASC 842でdeferred rentはなくなる?
ASC 840で認識されたdeferred rentは、ASC 842では認識されないのでしょうか?貸借対照表にdeferred rentとしては表示されないので、その意味では認識されません。一方、以下のようにリース債務とROU assetの差額の中に含まれており、その意味では認識されています。
合計 | 75,000 | 20,000 | 55,000 | 55,000 | 75,000 | – | |||
年 | リース料 | 利息 相当額 |
リース 債務減少 |
リース 債務 |
ROU asset 償却 相当額 |
ROU asset | リース費用 | Deferred rent(単年) | Deferred rent(累計) |
B/S | B/S | P/L | |||||||
(a) | (b) | (c) | (d) | (e) | (f) | (g) | (h) | (i) | |
=(a)-(b) | =(g)-(b) | =(c)-(e) | =(f)-(e) | ||||||
当初残高 | 55,000 | 55,000 | |||||||
1 | 5,000 | 4,951 | 49 | 54,951 | 10,049 | 44,951 | 15,000 | (10,000) | (10,000) |
2 | 10,000 | 4,947 | 5,053 | 49,898 | 10,053 | 34,898 | 15,000 | (5,000) | (15,000) |
3 | 15,000 | 4,492 | 10,508 | 39,390 | 10,508 | 24,390 | 15,000 | – | (15,000) |
4 | 20,000 | 3,546 | 16,454 | 22,936 | 11,454 | 12,936 | 15,000 | 5,000 | (10,000) |
5 | 25,000 | 2,064 | 22,936 | – | 12,936 | – | 15,000 | 10,000 | – |
上記の表からわかるように、リース債務の減少額 (c)とROU asset (e)の差額が、各年度のdeferred rent の発生額(h)となっています。そして、リース債務(d)とROU asset (f)の残高のネット額が、deferred rent 累計 (i)になっています。設例3と比べてみてください。