今回は、2022年に新リース基準を適用したときの経過措置を見ていきたいと思います。会計基準の変更なので、retrospectiveな遡及適用が原則です。但し、遡及適用は煩雑なので以下のような2つのtransition methodが設けられています。
ASC 842-10-65-1
- Retrospectively to each prior reporting period presented in the financial statements with the cumulative effect of initially applying the pending content that links to this paragraph recognized at the beginning of the earliest comparative period presented. Under this transition method, the application date shall be the later of the beginning of the earliest period presented in the financial statements and the commencement date of the lease.
- Retrospectively at the beginning of the period of adoption through a cumulative-effect adjustment, Under this transition method, the application date shall be the beginning of the reporting period in which the entity first applies the pending content that links to this paragraph.
Comparative method
1の方法はComparative methodとか Modified retrospective methodと呼ばれています。これは、原則に近い方法です。
なお、移行措置に関しては、application date、effective date 、 transition periodといった概念が使われています。application dateは、新リース基準を適用する日、effective dateは、新リース基準を採用する日、transition periodは、表示されている財務諸表のもっとも最初の日とeffective dateの間の期間です。
暦年決算の会社が、2021年及び2022年の2年併記の財務諸表を作る場合application date、 effective date 、 transition periodは以下のようになります。application dateは、2021年1月1日かリースのcommencement dateどちらか遅い方になります。
1/1/2021 | Earliest date presented ⇓ ⇓ Transition period (Application date=later of 1/1/2021 or commencement date) ⇓ |
1/1/2022 | Effective date |
12/31/2022 | Year end |
よって、2021年1月1日にoperating leaseがあれば、2021年1月1日にROU assetとlease liabilityを認識しすることになり、基本的に2021年1月1日に遡及して適用する形になります。さらにtransition periodに開始(commence)したリースについては、commencement dateがapplication dateとなり、新リース基準に沿った会計処理をします。
Effective date method
一方、2の方法はEffective date method 又はcurrent-period adjustment transition methodと呼ばれており、以下のようになります。
1/1/2021 | Earliest date presented ⇓ ⇓ ASC840を適用 ⇓ |
1/1/2022 | Effective date (= Application date) |
12/31/2022 | Year end |
つまり、Application dateを2022年1月1日として、それまでは、ASC840の旧リース基準を適用します。このため2021年の財務諸表がcomparativeで表記されても、2021年は旧来のASC840による表示のままです。2022年1月1日以降しかASC842は登場しません。簡便性から考えるとほとんどのnon-public 企業は、Effective date methodを利用することになると考えられます。
設例
具体的に2番目のEffective date methodによるとどのような処理がされるか見ていきましょう。
【設例】2020年1月1日から2024年12月までの5年のリースで、各年度の終わりにリース料を、5,000, 10,000, 15,000, 20,000, 25,000と漸増して払っていく。ASC 840 の下でオペレーティングリースと判定された。2022年からEffective date methodで新リース基準ASC842 を適用する。
年 | リース料 | リース費用 | Deferred rent(単年) | Deferred rent(累計) |
=(a)-(g) | ||||
P/L | B/S | |||
(a) | (g) | (h) | (i) | |
合計 | 75,000 | 75,000 | – | |
1/2020 | ||||
12/2020 | 5,000 | 15,000 | (10,000) | (10,000) |
12/2021 | 10,000 | 15,000 | (5,000) | (15,000) |
12/2022 | 15,000 | 15,000 | – | (15,000) |
12/2023 | 20,000 | 15,000 | 5,000 | (10,000) |
12/2024 | 25,000 | 15,000 | 10,000 | – |
2021年の末、2022年の冒頭は2年間までに認識されたリース費用が累計で30,000認識されており、B/Sは以下のようになっています。
B/S (Cr)deferred rent (15000)
2022年冒頭をapplication dateとしてオペレーティングリースの新基準を適用します。
リース債務とROU assetの算出
適用するには、まず、リース債務の現在価値を出す必要があります。Application date時点(1/1/2022)で得られる割引率を適用します。この場合、残存リース期間の3年かそれとも当初のリース期間の5年の期間の利率をとるかは、会計方針の選択の問題とされます。本例では、後者を採用します。この割引率に関しては、Implicit Rate、Incremental Borrowing Rate等の議論があり別の機会に触れますが、本例では非公開会社の簡便法(ASC 842-20-30-3)を採用することとし、risk free rateを利用することにします。1/1/2022時点で得られた5年のrisk free rateは1.5%だったとします。
1.5%で割り引いた12/2022から12/2024までのリース料の現在価値は、58,086なのでこれをリース債務にします。ROU assetは、(リース債務)-(Deferred rent)になります。リース費用の認識は、残存リース料(15,000, 20,000, 30,000)とdeferred リース相当分(既に費用化した部分15,000)を3年で平準化するので((15,000+20,000+25,000) -15000)/3で年間15,000です。ROU assetの償却相当額は、(15000-利息相当額)になります。
合計 | 75,000 | 4,000 | 71,000 | 71,000 | 75,000 | ||
年 | リース料 | 利息相当額 | リース債務減少 | リース債務 | ROU asset 償却相当額 | ROU asset | リース費用 |
B/S | B/S | P/L | |||||
(a) | (b) | (c) | (d) | (e) | (f) | (g) | |
=(a)-(b) | =(g)-(b) | ||||||
1/2020 | 71,000 | 71,000 | |||||
12/2020 | 5,000 | 1,073 | 3,927 | 67,073 | 13,927 | 57,073 | 15,000 |
12/2021 | 10,000 | 1,013 | 8,987 | 58,086 | 13,987 | 43,086 | 15,000 |
1/2022 | 58,086 | 43,086 | |||||
12/2022 | 15,000 | 878 | 14,122 | 43,964 | 14,122 | 28,964 | 15,000 |
12/2023 | 20,000 | 664 | 19,336 | 24,628 | 14,336 | 14,628 | 15,000 |
12/2024 | 25,000 | 372 | 24,628 | – | 14,628 | – | 15,000 |
2022年1月1日以降の具体的な仕訳は以下のようになります。
1/1/2022の仕訳
(Dr.) | ROU asset (B/S) | 43,086 |
Deferred rent (B/S) | 15,000 | |
(Cr.) | リース債務(B/S) | 58,086 |
Deferred rentは上記の仕訳でRUAとリース債務の差額に変換されます。
12/31/2022の仕訳
(Dr.) | リース債務 | 14,122 |
リース費用(金利相当) | 878 | |
リース費用(RUA償却相当) | 14,122 | |
(Cr.) | ROU asset | 14,122 |
Cash | 15,000 |
12/31/2023の仕訳
(Dr.) | リース債務 | 19,336 |
リース費用(金利相当) | 664 | |
リース費用(RUA償却相当) | 14,336 | |
(Cr.) | ROU asset | 14,336 |
Cash | 20,000 |
12/31/2024の仕訳
(Dr.) | リース債務 | 24,628 |
リース費用(金利相当) | 372 | |
リース費用(RUA償却相当) | 14,628 | |
(Cr.) | ROU asset | 14,628 |
Cash | 25,000 |
Practical Expedients(簡便法)
なお、移行時にはASC 842-10-65-1で以下のような簡便法が認められています。
- An entity need not reassess whether any expired or existing contracts are or contain leases.
(リースであるかどうかの判断をASC842 に従ってし直す必要はない)
- An entity need not reassess the lease classification for any expired or existing leases
(ASC840 でoperating leaeであるとされたものは、ASC842でもオペレーティングリース、ASC840でキャピタルリースとされたものは、ASC842ではファイナンスリースとし、判断をし直す必要はない。)
- An entity need not reassess initial direct costs for any existing leases.
(initial direct costに関して再度検討する必要はない。)
つまり、ASC840下での判断をそのまま引き継ぐ規定ですが、ASC840 下での判断が正しいことを前提にしています。よって、そもそもASC840 下での判断が間違っていたことが判明した場合は、選択してもそのまま引き継ぐことはできません。なお、1から3は一つのパッケージとしてまとめて選択、非選択をする必要があります。
さらに、comparative methodを採用した場合、リース期間の判定(更新、解約、購入オプションの利用)とROU assetの減損の判断に関しては事後的な情報を利用することができるとしています。