新リース基準 - 第四回 割引率

By May 2nd, 2022 June 7th, 2022 監査

今回は、リース債務を計算する際の割引率について解説します。リース債務は、リース全期間の支払総額等(Lease Payment-次回解説予定)を現在価値(Present Value – PV)に引き直して求められますが、そのために必要になるのが割引率です。

割引率の種類

新しいリース基準ASC 842には以下の2つの割引率が提示されています。

  • Implicit rate (黙示的な割引率)
  • Incremental borrowing rate (追加借入の金利)

簡略化してありますが、それぞれ以下のように説明できます。

Implicit rate:
PV of lease payments + PV of residual assets = Fair value of assets +Deferred initial direct costs
の等式を満たすような左辺の現在価値(PV)を導く割引率。

一見わかりにくいですが、単純化すると、リース料資産の残存価値を現在価値(PV)に割り引いた金額は、現在の資産のfair valueとleaseを実施するために直接かかった費用(initial direct cost)を回収できるようにlessorは意思決定しているはずであると考えているといえます。そして、そのようになる割引率をimplicit rateと呼んでいることになります。

Incremental borrowing rate:
これはlesseeの視点から見た割引率で以下のように定義されています。
the rate of interest a lessee would have to pay to borrow an amount equal to the total lease payments on a collateralized basis over a similar term in a similar economic environment.

つまり、lesseeがリース支払額総額を借りなければならないとしたときの追加借入率になります。なお、リース期間や経済状況が同じような担保付きローンを想定するとあります。

割引率の適用順序

このimplicit rateとincremental borrowing rateですが、ASC 842では適用順序を決めています。原則はimplicit rateです。ただ、これは上記の説明でわかるようにlessorからの視点で算出されるレートです。Lessee、特にoperating leaseのlesseeにはそのような情報は入手困難と思われます。

そこで、ASC 842は、implicit rate がreadily determinableでないときは、incremental borrowing rateを使うと規定しています。

Risk-Free discount rateの使用(簡便法)

しかし、incremental borrowing rateを実際にlesseeが算出しようとすると、かなり複雑な計算を強いられることになります。つまりlesseeの credit ratingや担保となる資産(leaseで借りている資産も対象)の流動性、リース期間、経済情勢を考慮する必要があり、簡単なことではありません。実務上は、リース支払額を借りると仮定した場合のquoteを銀行から文書でもらうといったことが考えられますが、これもハードルが高いと思われます。

上記のような問題に鑑み、非公開企業に限ってrisk-free rateを割引率として使うことをpractical expedient (簡便法)として選択できます。risk-free rateは、ASC842には具体的に定義されていませんが、例としてzero-coupon U.S. Treasury instrumentsが上げられています。

なお、risk-free rate を選択するに際しては以下のような点に留意が必要です。

  • 前述のlessorからの視点のimplicit rateがreadily determinableな場合は、それを使う必要があります。
  • Risk-free rateを使う選択は、class of underlying assets毎にできるとされています。ここでのunderlying assetsはリース対象資産です。ただ、このclassが何を意味するのかASC842では、明確ではありません。そのためリース資産のphysical nature (土地、建物、機械等)で分けるという観点と、リース資産に対するリスク(使用目的や環境)の度合いで分けるという観点で議論がされているようです。
  • Risk-free rateは通常incremental borrowing rateより低いため、割引率が下がる結果ROU assetとlease liability が増加します。

連結子会社の割引率(incremental borrowing rate

ところで、連結子会社でincremental borrowing rateを使う場合、一体どのレベルにおける追加借入の金利を採用するのか問題になり得ます。

この点に関しては、ASC842には明記されていませんが、ASC842に付随しているBC(Basis of Conclusions)201で以下のように論議された内容が示されています。
Depending on the terms and conditions of the lease and the corresponding negotiations, the parent entity’s incremental borrowing rate may be the most appropriate rate to use as a practical means of reflecting the interest rate in the contract.

つまり、場合によっては親会社のincremental borrowing rateを使うのが最適な場合があるとの見解です。それでは、具体的にどのような場合かについては次のような例が上げられています。
For example, this might be appropriate when the subsidiary does not have its own treasury function (all funding for the group is managed centrally by the parent entity) and, consequently, the negotiations with the lessor result in the parent entity providing a guarantee of the lease payments to the lessor. Therefore, the pricing of the lease is more significantly influenced by the credit standing of the parent than that of the subsidiary.

結論だけ要約すると、lessor側のリース価格の設定が子会社より親会社の信用を元になされているような状況の場合は、親会社のincremental borrowing rateを利用するのが適切であるとしています。

次回は、割引計算の対象となるリース支払額に関して触れる予定です。