今回は、lesseeの視点からリースに関して支払われる金額の扱いを見ていきます。今までの説明では、月々の使用料支払額だけを対象に資産化等を議論してきましたが、リースに関する支払いは、他にもいろいろ発生します。ASC 842においてそれらがどのような扱いになっているか判断して、Lease Paymentの金額を確定していきます。
Lease Payment
このLease PaymentはASC 842では、重要な概念でLease Paymentの現在価値でリースの区分(finance lease or operating lease)を判断したり(第一回参照)、lease liabilitiesやROU assetとして資産化される金額の算出基礎になります。Lease Paymentの構成については続いて解説しますが、一言で言うとリース資産の利用権のためにlesseeがlessorに対して行う支払い(Lease payments are the payments made by the lessee to the lessor for the right to use the underlying asset)といえます。
なお、前基準のASC 840では、リースの区分を判断する基準の一つとして、minimum lease paymentsがリース資産のfair valueの90%以上というものがありました(ASC 840-10-25-1 (d))。新基準でも第一回で同じような判断基準があると触れましたが(ASC 842-20-25-2 (d))、この条文ではminimum lease paymentsという言葉は使われておらず、単に上述のLease Paymentになっている点、用語に注意が必要です。
Lease Paymentの構成要素として新リース基準ASC 842-10-30-5は以下のようなものを挙げています。
1.Fixed payment (842-10-30-5 (a))
これは、単純化すると契約で確定している使用料になります。月$xxxの賃料といったものです。
2.Lease incentive (842-10-30-5 (a))
不動産の賃貸等でよく見かけるlandlordがtenant improvementの費用を負担するような例です。これは謂わばネガティブな支払いで、lessorからもらった、若しくはlessorに負担してもらった金額は、Lease Paymentから減額します。
3. Variable lease payment (842-10-30-5 (b))
1.の確定した金額(fixed payment)以外に、変動する支払額がリース契約で決められることがあります。ASC 842では、時の経過以外の要因でリース開始時以降に変動する(changes in facts or circumstances occurring after the commencement date, other than the passage of time)支払額と定義しています。扱いは以下の2つに分かれます。
・指数や相場(例:Consumer Price Index やmarket interest rate)に基づくものは、リース開始時の当該指標や相場をもちいて算出した金額をLease Paymentに含めます。例えば、家賃が毎年物価指数に基づいて変動するような場合です。
・上記以外の変動支払額は、Lease Paymentには含めません。
よって、よく小売業の店舗賃借などである固定家賃+売上のxx%といった形での変動支払額については、変動部分は、Lease Paymentには含めません。
4.Purchase option (842-10-30-5 (c))
リース終了時にpurchase optionが行使されることが合理的に確実(reasonably certain)である場合は、行使価格はLease Paymentに含められます。これは、買取価格でありリースに関する支払いではないという議論も成り立ちそうですが、会計基準ではリース期間を耐用年数まで延長したことと実態に違いはないと考えているようです。
また、この合理的に確実(reasonably certain)というのはどれほどの確実性をいうのかASC 842は明確には示していません。この点、ASC840のreasonably assuredと同じ概念で75-80%程度の確実性をいうとしている解説もあります。
ところで、このpurchase optionが行使されることが合理的に確実(reasonably certain)という文言は、第一回 リースの種類にも出てきています。ご覧いただくとこのような場合は、そのleaseはfinance leaseに分類されることがわかります。
5. Termination penalties (842-10-30-5 (d))
リース契約にはリース契約を解約するオプション(option to terminate lease)をlesseeに認めていることがあります。リース開始時の会計上のリース期間の判断においてそのような解約オプションを行使することがあり得ると予想している場合は、その解約オプション行使に伴うペナルティーをLease Paymentに含めます。例えば、10年リースだが、$10,000のペナルティーを払えば解約できるオプションがあり、5年で解約すると想定してリース期間を会計上設定するような場合です。なお、これに関するASC 842は、解約オプションを行使しないことが合理的に確実(reasonably certain)であるときは、会計上のリース期間の判断には解約オプションを考慮しないといったコインの裏側から規定するような構成を取っていて一見わかりにくくなっています。
6.Transaction structuring fees (842-10-30-5 (e))
大型リース案件では、特別目的事業体(special-purpose entity)を通して物件がリースされることがあります。その場合、lesseeが特別目的事業体のオーナーにリース組成費用を払った場合は、それもLease Paymentに含まれます。
7. Residual value guarantee (842-10-30-5 (f))
残存価値の保証に関してはそれにより支払義務を負う可能性が高い(probable)金額をLease Paymentに含めます。
ここで留意するのは、guaranteeした金額全額ではなく、支払義務を負う可能性が高い(probable)金額に限定される点です。一方、第一回 リースの種類では簡略化しましたが、リース支払額によるfinance leaseとoperating leaseの判定の基準(ASC 842-10-25-2)は以下のようになっています。
The present value of the sum of the lease payments and any residual value guaranteed by the lessee that is not already reflected in the lease payments in accordance with paragraph 84210305(f) equals or exceeds substantially all of the fair value of the underlying asset.
支払義務を負う可能性が高い(probable)residual value guaranteeは、上に説明したとおりLease Paymentの一部となります。この規定はリースの種類の判定時には、それだけではなく、残りのresidual value guaranteeも追加して判断するということを示しています。例えば、residual value guaranteeの保証額が$150,000、支払義務を負う可能性が高い(probable)金額は$80,000とすると、Lease Paymentには$80,000が含まれ、残りの$70,000 はLease Paymentとは別にany residual value guaranteedとして加算されて、結局$150,000の保証額全体がリースの区分判定に使われることになります。このように、支払義務を負う可能性が高い(probable)金額がゼロの場合でも、リースの区分判定時のresidual value guaranteedもゼロになるわけではないので注意が必要です。
なお、ASC 842は、破損、異常な減耗、過剰な使用に起因するような残存価値の不足を補填するような規定は、Lease Paymentに加算されるresidual value guaranteeにはあたらないとしています。これは、Lease Paymentに含まれるresidual value guaranteeは、リース開始時において意図された使用状況で使用した後、返却したときの予想される公正価値を元に算出される構成を取っているためです。意図された使用状況と異なる使用状況がリース開始後発生しても、そもそも、それは当初予想できません。ASC 842では、過剰な使用等に伴う残価保証補填額の増加は、変動リース支払と類似するとしています。
次回は、リース契約に含まれているnonlease component, noncompnentに関して解説します。