今回は、lesseeの視点からリースの契約に含まれる非リース要素(nonlease component)を見ていきます。いままで、リース契約は、物の貸借をするだけの契約という前提で議論をしてきました。実はリース契約に物を貸借する権利義務を定めた要素以外に、貸借物に関する保守管理、不動産の共用部分の管理維持、税金の負担などの事項がlessorとlesseeの間で取り決められていることが多くあります。新リース会計では、これらの事項をlease component(リース要素)、nonlease component (非リース要素)、 noncomponent(非要素)と区別して扱っています。Lease componentだけを含む「リース契約」と混乱を避けるため複数のcomponent 、noncomponentを含む契約をリースの取決(arrangement)として説明していきます。
リースの取決の要素
Lease component (リース要素)
リースに関する取決のうちリース対象資産を利用する権利を付与する部分です。
Nonlease component (非リース要素)
リースに関する取決のうち、リース資産を利用する権利とは直接関係ない、何らかの財やサービスを移転する部分です。これは、上述した不動産賃借の場合のCAM(Common Area Maintenance)費用負担の取決などです。
Noncomponent(非要素)
リースに関する取決のうち何らの財もサービスも移転しない部分です。ASC 842は以下のようなものがnoncomponentにあたるとしています。
- 契約を設定したり、リースを開始したりするための管理的費用でlesseeに対して財もサービスも移転しないもの(Administrative tasks to set up a contract or initiate the lease that do not transfer a good or service to the lessee)これは、主にlessorから見たコストです。
- Lessorのコストの償還又は支払い(Reimbursement or payment of the lessor’s costs.)これは、lesseeから見たコストで、lessorが資産の所有者として負う費用負担を、lesseeがlessorに償還したり、第三者(税務当局等)に直接支払うような負担をいいます。このような負担は、lesseeには何らの財もサービスも移転しないものです。
複数のlease componentの分離
実際にリースに関する取決を分析するときには、上記のlease component(リース要素)、nonlease component (非リース要素)、 noncomponent(非要素)を判断することになりますが、lease component関しては、以下の基準で複数のlease component(リース要素)がないかも判断する必要があります(ASC 842-10-15-28)。
- Lesseeがそのリース資産から単独で、又はリース資産とlesseeが容易に調達可能な手段(resources)と合わせてリース資産の利用から利益を得ることができる。
- リース資産の利用がが、その他のリース資産の利用と高度に相互依存的でなくまた相互に統合されていない。
具体的な上記のような検討が必要な例としては、建物と家具を一緒に借りた場合、工事機器として、クレーンとトラックを一度に借りたような場合が想定されます。
なお、上記の規定にかかわらず(上記の条件(1)、(2)を満たしていなくても)、土地がリース対象資産となっている場合は、土地の部分はそれが重要でない場合(insignificantな場合)を除き、建物等のリースとは別のlease component(リース要素)ととして扱うようにとあるので(ASC 842-10-15-28)、注意が必要です。これは、土地が非償却資産であり別の扱いが必要であるためと説明されています。
各componentに対する取引価格の配分
ASC842では、lesseeは各lease component(リース要素)とnonlease component (非リース要素)に取引対価(consideration)を按分するように規定しています(ASC 842-10-15-33)。なお、この取引対価には、変動支払額は入らないことに留意が必要です(ASC 842-10-15-35)。
具体的には、ここのlease component(リース要素)とnonlease component (非リース要素)のstandalone price(単独取引価格)で取引対価(consideration)を按分するとしています。このstandalone priceはobservable(観測可能)なものを利用し、observableなものが容易に入手可能でない場合は、standalone priceをestimateするとしています。なお、ある要素のstandalone priceの変動性が高かったり、不確定であるときは、residual estimation approachが許容されるとあります。これは、他の要素のstandalone priceが観測できる、又は見積もることができる場合、残額を変動性が高い又は不確定な要素のstandalone priceとするapproachです。
なお、noncomponentに関する固定支払いは、各componentに按分され、noncomponentにはconsiderationは配賦されないこととなります。
以下が簡単な例です。
【例1】リースの取決には以下のようにリース期間全体の支払いが固定額で取り決められているとします。
Building lease | $1,600,000 |
Property tax | $150,000 |
CAM | $150,000 |
Standalone PriceはBuilding lease $1,800,000 、 CAM $200,000とされたとします。
Consideration $1,900,0000の按分は以下のようになります。
Building lease | $1,710,000 |
CAM | $190,000 |
なお、上述したように、あるcomponent又はnoncomponentが固定金額でなく変動金額である場合には、それらは按分の対象となる取引対価(consideration)からは除いて計算が行われます。
以下のようになります。
【例2】リースの取決には以下のようにリース期間全体の支払いが固定額と変動額で取り決められているとします。
Building lease | $1,600,000(固定) |
Property tax | 変動 |
CAM | $150,000(固定) |
Standalone Priceは、Building lease $1,800,000、 CAM $200,000とされたとします。
Considerationは、$1,750,000となり、按分は以下のようになります。
Building lease | $1,575,000 |
CAM | $175,000 |
この場合、変動額であるproperty taxの支払いが、仮に年$15,000あったとするとその金額は、ROU assetやlease liabilityの計算には含まれず、各年度の損益計算書に90%がの支払いが lease expenseに10%がmaintenance expenseに按分されて表示されることになります。
Lease componentとNonlease componentを区別しない簡便法
ASC 842では、簡便法(Practical expedience)として、取引対価の配賦において、リース資産のクラス(class of underlying assets)毎にlease component(リース要素)とnonlease component (非リース要素)を区別しない簡便法を会計方針として選択することが認められています(ASC 842-10-15-37)。なお、「リース資産のクラス(class of underlying assets)」に関しては第四回のRisk-free discount rateの使用(簡便法)の説明をご覧下さい。
具体的には以下のようになります。
【例3】リースの取決には以下のようにリース期間全体の支払いが固定額で取り決められているとします。
Building lease | $1,600,000 |
Property tax | $150,000 |
CAM | $150,000 |
会計方針として、lease component(リース要素)とnonlease component (非リース要素)を区別しない簡便法を採用したとします。
この場合、consideration $1,900,000は、全てlease componentである、building leaseに配賦されます。
【例4】上記【例2】の場合に、この簡便法を採用した場合は、consideration は、$1,750,000となり、全てlease componentである、building leaseに配賦されます。
なお、簡便法といっても、複数のlease componentを一つにまとめることは許容されていませんので留意が必要です。
第五回のLease Paymentとの関係
上記の区分と按分方法に基づきlease componentに割り振られたconsiderationは第五回で説明したLease Paymentを構成します。簡便法を利用してnonlease component相当部分がlease componentに割り振られてた場合も同様です(ASC 842-10-30-6)。よって、簡便法はCAMなどを区別して会計処理する必要がないので手間が省けますが、リース区分がfinance leaseになってしまう可能性や、ROU assetとlease liabilityが膨れ上がる点も考慮する必要があります。
ASC 840のexecutory costとの関係
旧基準ではexecutory costsとして、保険、メインテナンス、税金などを上げこれらはminimum lease paymentには含まれないとしていました(ASC 840-10-25-5)。Executory costsは明確に定義はされておらず、また、和訳もしにくいのですが、リース資産を保有、運用する上で発生する費用などと説明されていました。
ASC 842では、このexecutory costsは上述したように、一律( minimum) lease paymentには含まないという立場はとらず、nonlease component (非リース要素)、 noncomponent(非要素)に区別して場合によってはLease Payamentに含まれる構成となっています。
次回は、initial direct costの扱いについて説明します。